簡単に理解できる「せん妄」

せん妄状態の患者

看護師が誰でも経験する、せん妄状態の患者。

対応するのは本当に大変ですし、労力を使います。

昼間は穏やかに、普通に過ごしていた患者さんが、夜間になったら急に幻視(天井に無数の虫がいるなど、見えない物が見える現象)がおこり、暴言や暴力をふるうようになってしまった。

大事な管を抜かれた!

しかし、朝になると落ち着きを取り戻してこのような行動はみられなくなった。そして、インシデントレポートを書くために帰れない…泣

これは、よくある「せん妄」の状態です。

特に夜間のみ、このような状態になる場合を夜間せん妄と読んでいます。

せん妄とは一体何なのか?

せん妄とは、何らかの原因で生じる意識の障害です。


意識とは

看護師は患者の意識が良い、意識が悪いと判断をしています。

意識は、主に2つの因子から成り立っています。2つの因子とは「覚醒」と「認識」です。

大雑把にいうと、「覚醒」とは、目が覚めているかどうか、「認識」は周囲で起きていることを正しく理解出来ているかどうかです。

この2つの因子のどちらかに異常がある場合に意識が悪いと判断をします。

例えば、呼びかけないとすぐに眠ってしまう(覚醒しない)場合は、覚醒が悪いために意識が悪いと判断します。

逆に覚醒はしているが、周囲で起こっている事を正しく理解出来ない場合は、認識が悪いために、意識が悪いと判断します。ちなみに見当識は、認識ができないと保つことができません。

意識は悪いけど正常な場合?

覚醒していないし、認識もできないけど正常な状態があります。

それは、寝ているときです(下図参照)

THE ICUBOOK 3rd edition メディカルサイエンスインターナショナル Paul L. Marinoら著・稲田英一訳より引用作成

 

睡眠は、覚醒と認識が悪いのですが、脳などの中枢神経系に何か異常があって覚醒が悪いわけではありません。

眠ってるから覚醒していないし、認識もできません。(ごく当たり前のことですが)

よく、ただ寝ているだけなのか、意識が悪いのかが分からないという事を聞きます。この場合の判断なのですが、単純に起こしてみて、起きて(覚醒)周囲の状況を理解していれば(認識)ただ寝ていたと判断すればよいです。

起こしても起きない、起こしてもすぐに寝てしまう、起きてもつじつまの合わないような事を言う場合などは睡眠ではなく、意識の障害を疑います。

普通、ただ寝ているだけの人なら、他人に起こされれば起きます。

迷った場合はの判断方法としては、悪い方に評価しておくのがよいです。これは他の事にも言えますが、多分寝ているだけだから大丈夫ではなく、ひょっとしたら意識が悪いかもと考えることが非常に大切だからです。

この考え方ができれば、原因を考えたり、先を見通して備えたりすることができるからです。

他の例でいうと、心電図の波形が読めない時などに使えます。まぎらわしい波形があって(例えば心室性頻拍に見えるが、はっきり判断できないような波形)緊急性があるのか、それとも様子を見てもよいものなのか、判断できない場合は、より重篤なものとして考えるとよいです。

重篤なものとして考えておけば、急変の可能性を念頭において観察・備えができますし、医師にも「波形が典型的でなくはっきり判断できないが、重篤な不整脈が出現している可能性があるので一度見てほしい」などと報告ができます。

せん妄は意識障害

話を戻しますが、先程の図でみても分かる通り、せん妄は意識の障害です。

覚醒はしているが、正しく認識ができない状態がせん妄です。

なぜ、正しく認識が出来ないのか?

その理由としてせん妄は、注意力が障害されるためです。注意力とは、必要なものに意識を集中させることです。

例えば、人の話を聞く時は、相手の話に注意を向けることが必要です。厳密に言えば、表情やしぐさなど非言語も含みます。

モニターを監視したり、いろいろな音がする中でアラーム音を聴くことも注意力がなければできません。

せん妄はこの注意力が障害されてしまうために、認識ができません。

 

ちなみに、最も重篤な意識障害は脳死状態です。

注意力障害

注意力障害をさらに深くみていくと、転導性(てんどうせい)という言葉がでてきます。あまり聞き慣れない言葉です。

転導性というのは、注意をあるものから、あるものへ移す能力のことをいいます。

例えば、他の看護師と会話している最中にアラーム音が鳴った場合。アラーム音を認識できるのは、会話からアラーム音に注意を移すことができているためです。

せん妄では、この転導性が亢進(過剰になる)したり、低下してしまいます。

転導性が亢進すれば、注意を一つのものに向けることができなくなってしまい、色々なことに注意が移、周りが気になってキョロキョロしたり、そわそわしてしまいます。

会話をしていても、途中で話をきけずに、きょろきょろと周りを気にしたり他の場所を見つめるような事が起こります。

「点滴の管を触らないでください。」といわれて、その時は点滴の管に注意がいきますが、すぐに注意がうつってしまうために、しばらくすると、点滴の管が分からなくなって自分で抜くような行動が起こります。

逆に転導性が低下すれば、注意が他の物になかなか移せなくなります。

一つのものに固執したり、ずっと見つめたりするような行動が起こります。

例えば、点滴の管が入っている場所に注意が行き、ずっと見つめたり、触ったりしてしまいます。

 

このような注意力の障害(転導性の亢進か低下)がせん妄の主な症状です。

不穏とせん妄

よく表現される不穏ですが、せん妄とは別の概念です。

不穏とは、落ち着きがない状態であったり、興奮している、暴言を吐く、そわそわしているような状態をさします。

不穏=せん妄ではなく、せん妄の人・不穏の人・せん妄かつ不穏の人に分かれます。(下図参照)

ちなみに、不穏の原因にせん妄があります。

不穏の人は必ずしも、せん妄ではありません。

ある研究では、ICU(集中治療室)の不穏の原因で一番多いのが、せん妄であったという報告もあります。

不穏とせん妄は混同されがちですが、別々に考えることが必要です。何をするのか予測不能な点は共通していますが、それぞれに原因や対策が異なるからです。

せん妄の判断

せん妄であるか、せん妄でないのかを100%判断することはできませんが、せん妄だという「確からしさ」や、せん妄ではなさそう、ということを判断をすることは出来ます。

その方法は、なんとなくの主観的判断ではなく、せん妄を判断するために開発されたスクリーニングツールを使い客観的判断することです。

現在様々なツールが開発されて研究されています。(CAM・ICDSC・ニ-チャム・MDASなど)どのツールを用いても重要なのは、使用するツールを統一することと、正しくツールを使用することです。

人によって使用するツールがバラバラであると、前後の比較ができません。また使い方がバラバラであると、判断にかなりの差が出ます。

施設や状況によって、ツールを統一することが望ましいですし、導入する時は必ず正しい使い方や、ルールを決めることが必要となります。看護師それぞれが違った指標や基準で判断していては、ケアの統一ができません。

また、どんなツールでも100%の判断は出来ません。それぞれのツールの特徴や、評価者の熟練度で結果にばらつきが生じてしまうことなどを理解した上で使用しなければなりません。

いずれにしても、使用に関することでの合意を得ることが必要です。

せん妄と認知症の違い

せん妄と似ている意識障害に認知症によるものがあります。

どんな書籍でもよく比較されていますが載せます。

特徴的な違いは赤でアンダーラインしてあります。

・せん妄は発症が急激→「あの患者さんは三年で徐々にせん妄になりました」ということはありません。認知症と違って、せん妄は急に発症します。例えば、夜間になったらというように。

・せん妄の主症状は注意力障害です。認知症の主症状は物忘れ(病的な物忘れ=ご飯を食べたこと自体を忘れるなど)です。

・せん妄は幻視が特徴的です。天井に虫がいる。布団にありがたくさんいるなどです。

・せん妄は、時間の経過で回復します。一ヶ月ずっとせん妄状態だった、などというのは私も経験がありません。

せん妄は予防できるのか?

せん妄を予防するために、様々な取り組みや、薬剤の開発が行われています。しかし、確固たる根拠をもったせん妄予防法は確立されていません。

その原因としては、せん妄そのもののメカニズムがしっかりと解明されていないからです。

近年では、せん妄に炎症が関連しているという考え方もあります。

ある程度根拠があるものや、原因となり得るものは分かってきていますので、それらを試したり、原因を除去することが重要であると考えます。


せん妄状態の患者さんを担当することは非常に疲れますし、ストレスが溜まります。

また、患者さん自体もせん妄状態であることは、不快や恐怖を感じるとされ、また不利益な状況を作ることがあります。(計画外抜去など)

せん妄は患者、医療者双方に何もメリットはありません。

とにかく、今分かっていることで対策を立てていくしかありません。

一刻も早く、有効なせん妄予防や改善方法が確立されることを願います。

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