簡単に理解できるSpO2~意外と奥が深いSpO2~
Spo₂値から分かることは何があるのか。Spo₂値が良好=呼吸状態は良好と言えるのか?
いつも測定しているSpo₂値ですが、実は奥が深かったりします。
Spo₂は何を評価しているのか
Spo₂は、体の末端にプローブを装着して、光ビームによってHbと酸素などが結びついている割合を測定しています。プローブが光っているのは光ビームのためです。
つまり、肺で取り込まれた酸素が血液中のHbとしっかり結びついているかを評価します。
正確な酸素とHbの結合率は血液ガス(直接血液を機械で分析します)で分かります。(これはSao₂値といいます)Spo₂値は正確に測定できていれば、Sao₂値と誤差はほとんどありません。(誤差3%未満といわれています)ですので、酸素化の一般的な評価にはSpo₂値が用いられています。
Spo₂値が良好=呼吸状態は良好?
「Spo₂値が96%=呼吸状態は良い」は正しいか?お分かりの方もいると思いますが、答はNOです。
例えば運動した後のSpo₂値が96%だった、を考えればすぐにわかります。運動によって消費された酸素と、どんどん生産される二酸化炭素を処理するために呼吸は必ず速くて荒くなります。
この場合のSpo₂値は、一生懸命呼吸を行ったことから起こった結果でしかありません。
つまりSpo₂値だけでは呼吸状態の評価はできません。実際に呼吸状態を観察することが不可欠です。
Spo₂値が測定可能から言えること
Spo₂が測定可能で値も良好だった。このことから言えることは何か。
これには、最低限3つの体の機能が関わっています。一つは、肺の酸素化です。肺が正常に酸素を取り込めなければ良好なSpo₂値は得られません。
もう一つは、酸素の通り道の気道が開通していることです。気道が閉塞していては酸素そのものを取り込めません。ちなみに気道の評価には、血液中の二酸化炭素値もとても重要ですが、Spo₂値は血中二酸化炭素値とは別物です。
もう一つは、循環です。指先などの末端でSpo₂値が測定できるのは、酸素と結合した血液が末端まで循環によって運ばれているからです。(Spo₂の脈圧の波形などもしっかりモニターできることも条件です)
Spo₂が測定可能、値も良好だった場合は、気道・酸素化・循環が機能していることが言えます。
Spo₂の落とし穴
Spo₂にはいくつかの落とし穴があります。私がよく経験したことをお話します。
➀プローブが正しく装着されていなくてもSpo₂が測定できる時がある→指に対して斜めにプローブが装着されていても、なぜかSpo₂が測定できる場合があります。正しくプローブが装着されているかの確認は基本ですが、ついつい忘れがちです。
➁Spo₂値の変化はタイムラグ(時間差)がある。→気管吸引など、酸素化の変化を伴う処置を行う時にSpo₂値をチェックすることはよくあります。しかし、吸引した直後のSpo₂値は変化しません。ワンテンポ遅れて変化が来ます。これはSpo₂を体の末端で測定しているためです。気管吸引を再度行うかの判断をする場合は、しばらく待ちましょう。Spo₂値の変化は約1分後に反映されることがあります。(循環の状態で時間差は変化します)
何度も吸引してSpo₂値が大転落…の原因になります。
➂Spo₂値100%は決して100点満点ではない→酸素は体に増えすぎると有害です。健康な人でもSpo₂が100%になることは酸素吸引をしなければありえません。不要な酸素吸入はやめたほうが良いです。特別な治療を行っている場合以外は、酸素を増やしすぎないようにしましょう。
➃Hbは酸素以外でも結びつきます→Hbは通常酸素と結合して酸化ヘモグロビンとなります。酸素以外の代表的なものに一酸化炭素があります。一酸化炭素は酸素よりもかなり強力にHbと結合します。
火災の煙などを吸い込むと一酸化炭素中毒となりますが、一酸化窒素がHbを奪ってしまうので、酸素が結びつけずに細胞が酸欠となります。(一酸化炭素ヘモグロビンが増える)
タバコを吸うと同じく一酸化炭素ヘモグロビンができます。
Spo₂はHbが何と結びついているかまでは分かりません。一酸化炭素ヘモグロビンも酸化ヘモグロビンも関係なく結びついていれば、Spo₂値(%)は上がります。血液ガス分析では一酸化炭素Hb値などが詳しく分かります。
Hbが大事
Spo₂値は肺の酸素化の指標ですが、生命を維持するには肺で取り込んだ酸素を全身の重要な臓器に届けることが絶対不可欠です。いくら肺で血液を酸素化しても、それを全身に運べなければ意味がありません。
次は、酸素運搬能について説明します。酸素運搬能とは酸素を運ぶ能力です。これは何で決まっているのか?Do₂(酸素供給量)という計算式があります。
Do₂(酸素供給量)=CO(心拍出量)×Cao₂(動脈血酸素含量)
CO(心拍出量)とは心臓から送られる血液量のことで、心拍出量が多ければ酸素運搬能力も増えることは容易に分かると思います。Cao₂(動脈血酸素含量)とは動脈血の中に含まれる酸素の量を表します。これも多ければ酸素運搬能力は増えます。
Cao₂(動脈血酸素含量)はさらに次の式で表します(数式が苦手な人も読んでみてください(^^)/)
Cao₂(動脈血酸素含量)=(Hb×1.34×Sao₂)+Pao₂×0.0031
Pao₂×0.0031は動脈血の中にただ溶けている酸素量で、運搬能力にはほぼ関係ないので、除外します。Sao₂値はSpo₂とほぼ等しいですので置き換えます↓
Cao₂(動脈血酸素含量)=(Hb×1.34×Spo₂)+Pao₂×0.0031
1.34という数字もHbが1gでどれだけの酸素と結びつけるのかを計算するための係数なので深く考える必要はありません。要するに、酸素を運搬する能力に関わるのは、心拍出量とHbとSpo₂値(Sao₂値)ということになります。今回はHbとSpo₂値について考えます。
HbとSpo₂値を「市場から魚を、トラックでスーパーマーケットに運搬する」に例えます。市場(肺)で得た魚(酸素)をトラック(Hb)でスーパーマーケット(臓器)に運びます。
Hbが10㎎/㎗でSpo₂値が98%の場合は、トラックは10台で、各トラックに魚が98匹乗っています。
この場合は10×98=980匹の魚を運べます。では、Hbが10㎎/㎗で、Spo₂値が80%の時は、10×80=800匹運べます。
ではHbが5㎎/㎗でSpo₂値が98%の時は、5×98=490匹とかなり運搬効率が低下することがわかります。
Spo₂が約半分の50%に下がることは、全身管理されている医療機関ではまれですよね。重症な睡眠時無呼吸症候群でここまで下がっても、長くは続きません。
要するにHbが低下する貧血は酸素運搬能力において、圧倒的に不利といえます。Spo₂値ばかりに目が行きがちですが、酸素運搬能力として総合的に考える場合はHbの低下=貧血がないかに注意が必要です。そして、Hb値を早く上げる手段は輸血しかありません。
最後までお読みいただきありがとうございました☆