簡単に理解できる酸素運搬量~SpO2値ばかりにこだわらない!

酸素化

酸素運搬量について説明する前に、まずは、臨床でよく耳にする酸素化についてです。

酸素化とは、肺で酸素が血液に取り込まれることです。

つまり、外呼吸(息を吸ったり吐いたりする事)によって、大気から肺に取り込んだ酸素を、血管内へと移動させることです。

酸素が血液に取り込まれるだけでは、人間は生きていけません。血液に取り込まれた酸素が組織(細胞)まで運搬され、そこで細胞が酸素を使ってエネルギー(ATP)を産み出すことで代謝が営まれます。

酸素化の指標は?

と聞かれると、SpO2値がまず思い浮かびます。簡単に測定できる上に、機械の精度が高まって正確性が上がっています。

では、SpO2値が正常値であれば、組織への酸素運搬量は十分なのか?という問いです。

酸素投与がなく普通に呼吸をして、SpO2値が正常であれば、肺において酸素を取り込む機能は正常であると言えます。

しかし、当然ながら肺で酸素を取り込むだけでは、全身の組織へと酸素は運べません。

では、血液に取り込まれた酸素はどうやって全身の組織へと運搬されるのか?

酸素を運搬するには、酸素と結合するHb(ヘモグロビン)がまず必要です。そして、そのHbを全身へと送る血液の流れ=心臓から送り出される血液量(心拍出量)が必要となります。

つまり、酸素運搬量には、酸素と結合したHb・心拍出量というものが最低必要となります。

人間の呼吸や循環の究極目標は「細胞に酸素を届けること」と言えます。

酸素運搬量

酸素運搬量=心拍出量×動脈血酸素含量という式が登場します。

動脈血酸素含量とは、動脈血内にある酸素の量です。

動脈血酸素含量=ヘモグロビン量×酸素飽和度です。

血液内の酸素はそのほとんどがHbと結合して存在します。(一部は血液内に溶けています)

つまり、酸素運搬量は

酸素運搬量=心拍出量×(ヘモグロビン量×酸素飽和度)という式になります。

酸素が全身に運ばれる量=心臓から送り出される血液量×ヘモグロビンと結合した酸素量となります。

酸素運搬量を物流に例えると

酸素運搬量を物流に例えてみます。

工場へ、トラックを用いて品物を運びます。

工場=体の組織

トラック=Hb

品物=酸素と設定します。

トラック1台の最大積載量=100%は品物100個が積めるとします。

では、実際に工場まで何個の品物が運搬できるのか考えてみます。


トラックが10台(Hb10g/dl)各トラックに積む品物が98個(SpO298%)、トラックの平均時速が60km/とします。(工場までの距離は30㎞)

この場合、1時間で運べる品物数を考えると、トラック10台×各品物98個×運搬回数2回となり、品物は1960個運搬できます。

 

SpO2低下がもたらす酸素運搬量の影響は?

では、SpO2値が98%から80%まで下がった時はどうなるのか考えてみます。

この場合は、品物の数が1600個に減っているのが分かります。

SpO2が80%に下がったら、何をしますか?

多分慌てて酸素投与を行うと思います。この1600個を覚えておいて下さい。


では、Hbが10→7g/dlに下がった場合を考えてみます。

 

どうでしょうか?

この場合は、SpO2が約20%低下した場合以上に、品物が届けられないことが分かります。

Hbがいかに酸素運搬量において重要かが分かると思います。

しかし、Hbが7g/dlの時、「すぐに輸血!」とならないのではないでしょうか?

もちろん、酸素投与と違って輸血には様々なリスクがあります。

酸素運搬量を考えると、SpO2値の20%低下より、Hbが3g/dl低下のほうが、実は運搬能力はかなり低下するのです。

このことは、あまり考えられていないのかもしれません。


では、心拍出量の場合は?

心不全で心拍出量が半分になってしまったとします。

この場合、トラックは1時間に1回しか工場に到着できません。

ですので、運搬能力も半分となります。

心拍出量も言わずもがな、とても重要な要因である事がわかります。

まとめ

全身に酸素を運搬するという、大きな視点で考えると、よく注目される酸素飽和度だけではなく、ヘモグロビン量と心拍出量が重要な決定因子であることが分かる。

つまり、貧血や心拍出量低下は、酸素運搬にとってかなり不利な状態となる。

全身への酸素運搬という、生命維持に極めて重要な機能は酸素化だけでなく貧血の改善、循環管理、すなわち適切な心拍出量の維持=水分管理・血管抵抗・心臓壁運動評価等)が必要となる。

たとえSpO2値が100%でも、貧血や心拍出量の低下があれば酸素運搬量は大きく低下する事があります。

逆を言えば、貧血がなく心臓にも問題なければ、SpO2の一時的な低下に慌てる必要はないと言えます。


☆最後までお読みいただきありがとうございます☆

「分かりやすかった」「他にも知りたい」と思ってくださった方は、「重症患者を看るための看護師ノート」に他の項目も色々載せていますので、是非ご覧ください。

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